遺言でできること、できないこと
終活がブームになって久しく、遺言の必要性についてはよくご存じの方が多いと思います。
遺言には自分の死後、残された財産(遺産)をどうしたいか、ということなどを書きますが、死亡前後に必要となる支払いや手続きで、遺言ではカバーしきれないことがどうしても出てきます。
そのため、終活では、死後の備えとして、遺言だけではなく、その他の部分にもフォーカスして設計されることが多いです。
まずは遺言でできることについて、まとめてみます。
遺言でできること
<相続に関する事項>
推定相続人の廃除または取消し(民法892条、893条、894条)
相続分の指定・指定の委託(同902条)
特別受益の持戻の免除(同903条3項)
遺産分割の方法の指定・指定の委託(同908条)
遺産分割の禁止(同908条)
相続人担保責任の指定(同914条)
遺留分減殺方法の指定(同1034条ただし書)
<遺産処分に関する事項>
遺贈(同964条)
財団法人の設立(同41条2項)
信託の設定(信託法2条)
<身分上の事項>
認知(民法781条)
未成年後見人・未成年後見監督人の指定(同839条、848条)
<遺言の執行に関する事項>
遺言執行者の指定・指定の委託(同1006号)
<その他>
祭祀承継者の指定(同897条)
遺言の取消し(同1022号)
生命保険金受取人の変更(保険法44条1項)
意外と限定的です。
上記の、法定事項以外に書きたいことがあれば、「附言」として遺言の末尾に記すことが一般的です。法定の事項ではありませんから、遺言事項としての効力はありませんが、遺言の内容を知った親族等が、遺言者の気持ちを理解することに役立ちます。
それでは、遺言でできないことについては、どのようなことがあるでしょうか。
遺言でできないこと・その1 ~生きている間のこと~
遺言は、自分の意思を自分の死後に実現させるための制度ですから、当然、生きている間のことには効力が及びません。
最期まで元気で、判断能力も衰えず、自分自身のことをすべてできればよいですが、年齢や健康上の事情で必ずしもそうとは限りません。配偶者が元気だったり、近くに子供がいるような場合は、ご家族が代わりにしているようなケースがほとんどだと思いますが、頼むことができる家族がいない(または近くにいない)場合は、どうなるでしょうか。
判断能力はしっかりしている。
判断能力がしっかりしていれば、体が不自由だったとしても、意思表示はすることができます。どこかへ出向いて手続きをすることができないような場合は、その都度代理人を選任して手続きを代理してもらうこともできますが、士業等の専門家と財産管理契約を結んで、必要な財産の管理や手続きを代理してもらう方法もあります。
財産管理契約のポイントは、判断能力がしっかりしているうちに契約しておく必要があるということです。程度にもよりますが、多少の物忘れ程度でしたら、契約の締結はできる場合が多いでしょう。また、契約の内容は、当事者で設計することができます。
さらに、今後判断能力が衰えたときのため、任意後見契約を締結しておくと安心です。判断能力がしっかりしているうちに準備をしておいて、いざ認知症などの症状が出たときには、財産管理をはじめ、生活や医療、介護の契約等の法律行為を任意後見人が代理をします。後述の法定後見とは違い、当事者が代理する行為を決めることができます。
すでに判断能力が衰えている。
このような場合は、財産管理契約や任意後見契約が締結できませんので、法定後見の利用を検討することとなります。
いずれにしても、これらはすべて生きている間のことです。遺言は亡くなったあとのことになりますから、遺言の作成を考えるときには、ぜひ亡くなる前の備えについても一緒に考えてみてください。
遺言でできないこと・その2 ~死亡後の事務~
上記は後見制度に関することですが、後見は委任者である被成年後見人等が死亡すると終了します。その死亡後に、後見人等は経費等を精算して家庭裁判所に報告し、財産を相続人へ引き渡すこととなります。
ではそこから先をすべて遺言でカバーできるかといえば、そうではありません。遺言は、残された財産を誰に相続させるか、誰に遺贈するか、どのようにして相続させるかといった財産承継について生前に決めておき、死後にそれらを実現させることができますが、亡くなった直後の事務については遺言の効力が及びません。
亡くなった直後の事務とは、例えば官公署への届出、葬儀や埋葬に関する事務、入院・入所の費用の精算、公共料金の精算、遺品の整理といったものが挙げられます。後見人等がこれらを行うことはできませんし、遺言に書いても無効となります。
その部分は、死後事務委任契約でカバーします。
実際は、上記契約なしに配偶者や子が執り行っていることがほとんどですが、死後事務を頼める親族がいない場合、第三者がこれら事務を行うことは困難ですので、受任者と死後事務委任契約を結び、死亡直後の事務について委任をします。その内容は、委任者が取捨選択して設計することができます。
実際に事務を行うのは委任者が死亡してからのことになりますので、事務をスムーズに進めるために、必ず公正証書を作成してください。
まとめ
以上から、遺言でできることやできないことについては、時系列が関係しているということにお気づきかと思います。人生の最後の場面のためにご自身で準備ができる制度は、時系列で並べると
1.任意後見
2.後事務委任契約
3.遺言
となります。
元気なうちから任意後見契約、死後事務委任契約、公正証書遺言を三つセットで備えておけば、ご自身の意思を最後の場面に反映させることができます。
また、判断能力はしっかりしているけれども、体の自由がきかなくなり財産管理が難しくなって、管理を任せられる親族がいないような場合は、後見利用の前に財産管理契約を締結して財産管理だけを代理人に委任することもできます。
さらに、判断能力や健康状態を見守る見守り契約を任意後見契約とセットで結んでおくと、任意後見の開始時期を適切に判断してもらえ安心です。
ご自身の心配事は何かを行政書士等の専門家へお伝えいただいて、設計してみてください。